恐るべし、親知らず
笛寺だ。
歯の調子がすこぶる悪かった。奥歯がしくしくと痛んだ。
医者がいやで、その中でも歯医者は特に苦手で、なるべく近寄らないようにしてきたのだが、我慢も限界に達して、あきらめて歯医者に行くことに決めた。しかし、そんな医者嫌いで、行きつけの医者などないから、仕方なくもっとも近くの歯科医へ行った。
歯医者はレントゲン写真を見ながら、「親知らずが、奥歯を押していますね。入院のできる病院を探して下さい。うちでは、ちょっと無理です」と言う。
「入院?」たかが親知らずで、入院とは。その翌日、歯科のある総合病院を訪ねた。レントゲン写真をかざしながら、若い男の先生が唸っている。「う~ん。これはなかなか難物だな」少し痛いですよと断って麻酔がうたれた。「口を大きく開けて下さい」と言いながら、メスを手にしている。
親知らずが歯茎の中に完全に埋まってしまっているので、まず歯茎を切り開くという。ややあって、口をすすいぐように言われた。コップの水を口に含んで吐き出して驚いた。まるで血の海だ。麻酔が効いているので痛みは全く感じないが相当の出血のようだ。
気がつくと、先生はヤットコを手にしている。口を大きく開けるように言われて口を開けたが、もっと大きくという。しかし、それはもう無理。
しばらく考えていた先生だが、親知らずを2つに分割しないと取り出せないという。分割するためにドリルで歯に孔を開けてその孔を連続させて歯を分断するという。
そんなとき、看護師の女性たちの声が聞こえてきた。「親知らずの手術?明日は口が開かないほど腫れるのよね」嫌いでたまらないエヤードリルの音に耐えて、ようやく切断が終わった。
「後は抜くだけです」再びヤットコの登場。「もっと大きく」口を開けろという。顎が外れそうだ。「終わりました」先生の手には2つに分割された血だらけの親知らずがあった。
翌日目覚めると、口を開けられない。上下の唇を離すことさえできない。もちろん、食事など・・・入院のできる病院へ行けという意味がようやく納得できた。
そんな痛い思いを克服したきょうの気分は「生姜天ときくらぎ天」に「から揚げ」に「枝豆豆腐」と「蔵酒の冷酒」で
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