ブルガリア物語 ②~大きすぎるやかんは?~
吉岡です。
「吉岡さーん、ちょっとお願いしまーす」製鋼(スクラップを溶かして鋼塊(はがねのかたまり)を造ることです)グループの奥田君が呼んでいます。奥田君というのは、去年京大の大学院を出て入社した、言わばまだ新人です。やや細身の長身で容貌も整っています。ただ、ちょっと生意気です。
製鋼グループのテーブルに行くと、「ユリア」と名乗って若い女性の通訳が手を伸ばして来ました。ブルガリア語ー英語の通訳です。「吉岡」と答えて手を握り返しました。後で聞いたことですが、ユリアはソフィア大学卒の才媛だそうです。日本でいうところの東大卒。金髪の美人です。才色兼備の女性ですね。
「どうした?」と、尋ねました。奥田君は英語には問題ないはずです。技術的なことでしょうか。彼の説明によれば、電気炉(高電圧の大容量電流で鋼のスクラップを溶かす設備です)の容量が足りないのではないか、というのです。もっと大きな電気炉が必要だとブルガリア側は主張してきたのです。反論できずに応じる羽目になればこちらのコスト・アップになります。なんとか説得しなければなりません。
わが社の工場の製鋼技術者に質(ただ)すと、実績からいって今の設備で充分だし、不必要に大きな設備はかえって効率が悪いとのことです。
「例えば、キッチンのやかんを考えてみましょう。いっぱい湯が沸かせるからといって大き過ぎるやかんはガス代ばかり掛かって、しかも沸かし過ぎた湯は持って行き場がない」
僕の説明を頷きながら聞いていたユリアは、「OK」とひとこと、その後は一気に通訳しました。ブルガリア側からの反論はありませんでした。ブルガリアの技術者が何か探しています。
「ペ、ペ、ぺ、ペペルニック?」と、僕が言うと、「イエス、は、は、は、灰皿」と、ユリアは応じて来ました。うーん、なかなかできます。
ミーティングが終わってブルガリアのミッションが帰り支度を始めました。「ゴブジデネ」と、ブルガリア人、「ご無事でね」と日本人。少々異様な光景に見えます。
「変わった挨拶ですね。ご無事でね、とは」通訳の藤崎さんに訊ねてみました。「ゴブジデネ、ではなく、ドヴィジュダネ。さようならという意味です」僕も真似して「ご無事でね」と手を振りました。
そうそう、昨日のヨーグルトの件で思い出しました。ブルガリアならではのヨーグルトの料理があります。夏場は、キュウリを細かく刻んでヨーグルトに水と塩を加え、デイル・パセリやオリーブオイルで味を整る冷たいヨーグルトスープの「タラトール」が有名です。
「タラトール」 「バニツァ」
また、タラトールと並んでブルガリアの食文化に欠かせないのは「バニツァ 」です。各家々で作り方や味も違い、まさに「ブルガリアのおふくろの味」です。お正月や来客時のおもてなしの場によく食されるそうです。
パイ生地にヨーグルト・チーズ・卵をくるんで丸めていきます。これがとても食べごたえがあり美味しいのです。
そんなきょうの気分は「さんまの塩焼き」に「にごり酒」
ヨーグルトの話をしていたら、乳白色の酒を飲みたくなりました。
<ブルガリア語 ワンポイント> Довиждане(ドヴィジュダネ)さようなら
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