銀のペンダント・トップ ~メキシコ物語④~
吉岡慎一郎です。
「吉岡君は、アボガドが好きなのか。私は、アボガドが苦手でね」と、阿川部長。実は、ボーイが掲げている手書きのメニューを見ながら、アボガドのスープをオーダーしました。特にアボガドのスープが好きという訳ではありません。
「どんなものなのか、食べてみたくて」単なる好奇心からオーダーしただけなのですが、初めてのアボガド・スープ、なかなか美味でした。アントレは薄切り肉のメキシコ風ステーキです。
「デザートは、別の席を準備しております」ボーイに案内されたのは、さっき食事をしたテーブルとは反対側にあるあずまやでした。出てきたカスタードプリンがまた大きい。大満足のランチでした。
「ここは社長のおごり」
そう言って阿川部長は田村課長と私を制して会計を済ませてくれました。しかし、実際は阿川部長のポケット・マネーだったと思います。そんなことはない、交際費だろうって?いや、違うと思います。何故なら、阿川部長は領収書は受け取ってなかったから交際費で落とすのは無理です。
ホテルを出発したタクシーは小一時間走ってタスコに着きました。タスコは、山の中腹の坂の町です。もと銀の鉱山だったというだけあって、銀製品を売る店がずらりと並んでいます。
鮮やかなコバルト色のトルコ石と銀とが組み合わされたペンダント・トップを見ていると、先ほど間近に見た孔雀を思いだしました。
そのとき、突然スペイン語でまくし立てられました。私が見ていたペンダント・トップを指差しながら中年の小肥りの女がしゃべり続けています。
魔が指したとでも言うのでしょうか。気がつくとそのペンダント・トップを買っていました。頭の片隅に一人の女性の顔が一瞬浮かんでいました。
このメキシコのプロジェクトが進めば私もこのメキシコの地に長期滞在することになるでしょう。そうなれば、あのひとは?そこまで考えて、空港の女性を思い出しました。どうなったのだろう?
タスコのホテルはバルコニーから町が一望できる部屋でした。マリアッチの演奏が流れてきます。
ゆったりとした時間が流れている、こんな気分は・・
隣のにぎやかな集まりでは、これから「テキーラ」を飲むようです。私?陽気なメキシカンにお誘いを受けましたが、いえいえ、上司二人の前で倒れる訳には行きませんから、丁重に遠慮しておきました。
Hasta pronto.(アスタ プロント)・・それでは、また