恋する女は強い ~メキシコ物語①~
吉岡慎一郎です。今日からメキシコ出張です。とても緊張しています。
因(ちな)みに塾生の東谷さんとは同じ会社です。所属している事業部は一緒でフロアも同じなのですが、私とは違う部の部長です。
半年ほど前、メキシコの西海岸に製鉄所を建設するプロジェクトの話が持ち上がり、基本コンセプトを打ち合わせるための出張です。
私に取って初めての海外出張です。ロスアンゼルス経由でメキシコ・シティへのフライトです。そのメキシコ・シティのベニート・フアレス国際空港でのことです。
ロスアンゼルスからは、営業の船田さんが合流してきていました。船田さんは私の大学の先輩です。理系の大学院の修士を修了しているのに会社では営業の仕事を選んだ変わり種です。いや、先輩のことを変わり種などとは、失礼ですね。
入国手続きを済ませてホテルへ向かおうとタクシー乗場で待っていると船田先輩がいません。待つことしばし、やっと現れました。ええっ?女連れ?船田先輩の隣に若い女性がいます。
「おい、吉岡」手招きして先輩が呼んでいます。行ってみると、耳元でひそひそ話です。その女性、メキシコへ赴任した恋人を追い掛けて、遥々日本から独り、この見知らぬ国へ来たというのです。
「放って置くわけに行かないだろう」と、船田先輩は言います。言われてみると、まあ、そうです。
「彼氏の会社の名前以外何も分からないんだから」だ、そうです。なんと大胆な、なんと無鉄砲な。女性というのは、そもそもそういうものなのでしょうか。
先輩から先にホテルへ行くよう言われました。「先輩は?」と、訊くと、「もう少し話を聞いてみる」とのこと。先輩は、結局、夕食にも姿を現しませんでした。
私にはこんな艶っぽい話はありませんが、もし太平洋を超えて自分を追い掛けてくる女性がいたら果たしてどうするのだろう。そんなことを考えながら向かった夕食のテーブルには真っ赤なブラディ・メアリー(血だらけのメアリー)が載っていました。続きはまたお話しします。
きょうの気分は、メキシコまで恋人を追い掛けてきたあの女性の情熱に乾杯して、ブラディ・メアリーと行きましょうか。